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ヤン富田 山本義隆 山形浩生

2008/04/10

ヤン富田さんの「フォーエバー・ヤン」を聞いていて、サンプリングされている『実践的に明らかにしていったと、ぼくは信じております』という声が山本義隆さんであるということを思い出し、

のビデオを見て、『磁力と重力の発見』の山形浩生さんの書評を読みたくなったけど、asahi.comからページは消えていたので、webarchiveから拾った物を下に保存しておきます。

 多くの人は、昔の人たちは迷信深い非科学的な連中だったと思っている。その非科学的な部分、たとえば魔法だの錬金術だのを切り捨てることで、現代科学が成立したのだ、と。

 本書『磁力と重力の発見』全三巻は、この通念をひっくり返してくれる快著だ。本書は説く。科学は魔法を切り捨てたのではない。むしろ科学は魔法の直系の末裔(まつえい)なのだ、と。それも極端に言えば万有引力というニュートン力学の根幹こそ、魔法の最大の遺産なのだ、と。

 現代科学を妄信するぼくたちは、万有引力なんか自明だと思っている。でもそうだろうか。太陽もリンゴも、ぼくもあなたも、みんな「引力」とやらで結ばれている、だって? 徹底して合理的な機械論者たちは、そんな三流ナンパ師のくどき文句みたいなキモチワルイものは認めなかった。一方、ニュートンは、魔法や錬金術も研究していた。だからこそ「万有引力」という異様な概念を平気で導入できた。媒介無しに働く目に見えぬ力というのは、いわば魔法の世界に属するものだったからだ。そして間に何もなくても作用する魔法の実在の動かぬ証拠こそが磁石だった。本書はギリシャ時代にまでさかのぼり、そうした磁石の位置づけをたんねんにたどる。それも正解にたどりついておしまいの出来レースではない、ダイナミックな観念の歴史を、本書は各時代の世界観との関(かか)わりで入念に描き出す。

 本書の世界観へのこだわりを、ぼくは懐かしい思いで読んだ。それはかつて著者に予備校で教わったものだったからだ。本書の著者名を聞いて、書評委員会は一瞬どよめき、自分の知らない時代のできごとが、三十年たっても深い刻印を残していることにぼくは改めて驚いた。それは多くの点でマイナスの刻印だっただろう。全共闘騒動の最大の損失は、山本義隆が研究者の道を外れ、後進の指導にもあたれなかったことだ、という人さえいた。でもプラスの刻印もあった。その事件のおかげで、ぼくをはじめ無数の受験生が予備校でこの人に物理を教われたのだもの。かれが教えてくれたのはただの受験テクニックじゃなかった。物理は一つの世界観で、各種の数式はその世界での因果律の表現だということを、かれは(たかが受験勉強で!)みっちりたたき込んでくれたのだった。

 本書はその物理的な世界観を思い出させてくれた。同時に本書は、磁力や重力という常識化した概念/現象の不思議さに、改めて読者の目を開かせてくれるだろう。さらに本書を読むことで、世界はちょっとちがって見えるだろう。無味乾燥な科学が支配していたこの世界に魔法が戻ってきたのをあなたは感じるだろう。さあ、ハリー・ポッターに夢中になっている子供に、いつか本書を見せて教えてやろう。魔法の世界は、いま、きみの目の前にあるんだよ、と。

評者・山形浩生(評論家)

Web Archiveより


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